「ベルカ、吠えないのか?」

ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?

イヌへの語りかけ紡がれる現代史。犬と戦争の二十世紀。
「アラビアの夜の種族」以来、2年ぶりとなる古川日出男の書き下ろし長編ですが、「小説すばる」も「小説推理」もチェックしてない私にとってはあまり関係無し。ま、「サウンドトラック」を読み逃しているのでフルカワヒデオ長編は久しぶりではありますけども。


で、内容はさすがというべきか見事というべきか、フィクションとノンフィクション巧みに織り込み作品世界を具現化させる手腕は素晴らしい。決して読者を物語に誘うような流暢な文体ではないのですが、発する一言一言に絶対的な自信があり、紡ぐ為の頑強な意思が存在する。それがまた、読む為の程好い“意志の重み”になるのですよ。ただ、世界各地に犬達の系統樹が張り巡れされているためか、地図を眺めるような平面性が出てきたのは惜しいところ。もうちょっと個としてのイヌの描写(得にベルカ)を細かく掘り込んでいただければ、ラストの味わいがより深くなったと思うのですが。


ちなみに、一番気に入ったイヌは“北”。


ココデ果タス。ココデ生キル。オレハ生キテイルノダ。

体内を流れる血液の温度が0.8℃くらい上がりましたわ。