『300<スリーハンドレッド>』ネタバレあり

評価  :B++
満足度:A+
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
 狂気こそ、スパルタの性(さが)だ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 間違いなく、本年度の私的ベスト映画第一位最有力候補。

  
 絢爛豪華といいますか、血湧き肉踊るといいますか。 いやもう、素晴らしい戦国英雄伝in古代ギリシャでございました。
 ってか、スパルタ人の闘争本能は異常。 死狂いにも程がありますわっ。

 
 そもそも冒頭の《スパルタ式子供教育》からして常軌逸しすぎというか、そりゃ生まれたと同時に“選別”されて絶えず生存本能刺激しまくり環境で軍事訓練漬けの毎日を過ごせばイヤでも戦闘人種に鍛え上げられるってものですよ。 あれは狼じゃねえ、ヘルハウンドだ!

 
 上映時間のおよそ七割を占める、そしてこの映画最大の売りと思われる300人のスパルタ戦士(&ギリシャ連合)対ペルシアフリークス軍団の肉弾満願全席殺戮フルコースな戦闘シーンの数々も期待どおりにたいへん素晴らしく。
 戦略/戦術面も考慮に入れ仕立て上げられた舞台に、精鋭と雑兵の格の違いをまざまざと見せ付ける初戦のファランクス戦術(「押せぇーッッ!」)や、太陽を覆い隠すほどの大量の矢の雨(フランク・ミラーが発案して映画『HERO』で有名になったアノシーンね)が降りしきる中「それがどうした」と言わんばかりに盾でやり過ごしながら大笑いするスパルタ戦士達の豪胆さ、戦闘終了後まだ息のある敵兵達を死体群の中から見つけ出し容赦なく止めを刺していく徹底ぷりに、バレットタイムでタメと見得を演出したツーマンセル/二人一組による一分の無駄もない流麗苛烈な殺陣などもう観てるだけでアドレナリンやらなにやらドバドバでまくりでえらいことに。


 また、敵側であるペルシア軍もその版図の広さをしみじみと感じさせるバリエーション豊かな軍団構成で、最初はごく普通の曲刀装備ペルシアノーマル兵から始まり、次いで味方もかまわず轢殺す突撃仕様型サイや『ロードオブザリング』でお馴染みになった移動要塞型ゾウ、二刀流奇面ニンジャ部隊、多分オーガの末裔と思われる巨人、格好の時点で怪しさ炸裂の爆弾投擲部隊、手がごっついブロードソードになっている奇形巨漢男(前線に出てこない処刑人なのが勿体無い!!)などスパルタ側とは違う意味で色々と常軌をスピンアウトさせております


 つかクセルクセス王(英語読みなのかー)からして顔面ピアスだらけの金ぴかパンツムキマッチョ巨体で「え? 地球皇帝?」(わかるヒトだけピンとこい)状態なわけなんですが。 王のテント内なんてドコの悪魔崇拝サバト会場かと。 いや、ここまで割り切ってカリカチュアナイズさせればいっそ見事というものです。


 ……クセルクセス王を演じているのが『ラブ・アクチュアリー』でローラ・リニーの相手役をつとめ、「世界で最も美しい50人」にも選ばれた事もあるロドリゴ・サントロと気づいた時の衝撃は筆舌にしがたいものがありましたけどね。
 役者といえばスパルタ王レオニダス役のジェラルド・バトラーの顔の作り方も印象的で、平時は眉間にしわを寄せた難しい面をしているのですが、戦闘時には妙に晴々とした顔つきへと変化しているのはこの映画に置けるスパルタ人気質を上手く表していたかと。 あと個人的には髭ももちろんだけど編みこみヘアースタイルもステキだったと思いますです。


 原作のグラフィックノベルをコマ割り可ら色彩まで忠実に再現し、そこに映画ならではの意欲的な装飾を加味した映像ばかりに目が行きがちですが、ストーリーの要所要所で挿入されるフランク・ミラー節全開のハードボイルドなナレーション/台詞回しの数々もまた“オトコノコ心”にビシバシ決まっていって気持ちよかったですね。 


 ともかく、監督自身が「万人向けの作品ではない」と評しているとおり、全ての人に薦められる映画ではありませんが、予告映像を観て心惹かれた方(例:筋肉スキーやフリークススキー)は観ておいて損はないと思います。 おそらく期待どおりの映像世界がそこには広がっているでしょうから。


 私は、あと最低2回は観に行く。 サントラも買わねば。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◇追記
 この映画の感想で「歴史/文化考証無視の駄作」だとか「欧米至上主義を掲げたアジア差別作品」だとかいう、表面眺めただけで中身をまるで理解していない文明人気取りのトンデモ珍レビューが少なからず出ているようなので書き添えておきますが、この映画の本質はあくまで「強大な力を持つ敵を相手にしても、怯むことなく己の義を貫き通した漢たちの物語」という、大多数のオトコの人ならば誰しも少年時代に胸躍らせた事があるであろう《英雄譚(ヒロイズム))》の追体験であり、クリエイター達の飽くなき映像表現追求により創り出された純然たる結晶、《娯楽作品》なのです


 ゆえに《テルモピュライの戦い》はシチュエーションを生み出すためのモチーフにすぎませし、スタッフもプロパガンダなんて作品に沿ぐわない質を落とすだけの要素を入れようなんて欠片も考えておりません。 やせ我慢の美学/泥臭いハードボイルド成分は過剰なくらい投入していますけどねっ。 《死》あるが故の《人生》よ!   
 

 つうか、あそこまで神話級のファンタジックな映像の数々を観れば作品の方向性なんぞ一目瞭然でしょうに。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◇関連
300(スリーハンドレッド) (Shopro world comics)300アートブック (Shopro world comics)[rakuten:neowing-r:10035335:image]


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◇そういえば
 フランク・ミラーが劇画『子連れ狼』にインスパイアされて手掛けた、日本の侍が近未来のアメリカでフリークスや悪党相手に大暴れするグラフィックノベル『Ronin』も映画化決定したそうだけど……監督がちと微妙かなあ?

・参考
Ronin