Boichi『作品集HOTEL』

 表題作がガード不能 マン・アフター・タイム。 数千万年の時を巡り紡がれる親と子の絆、家族愛の物語。 素直で頑張り屋さんな幼子の魂にやすらぎのあらん事を!
 同じ世界設定を踏襲し、鮪のいなくなった世界で鮪の復活に全て捧げるとある男の足掻きを描いたセルフパロディバカSF 『全てはマグロのためだった』 も生命讃歌といった趣を感じさせて素晴らしかった。 失われていく世界の中でも明るいビジョンを示し続けるその姿勢はなるほど、口絵裏に 「アーサー・C・クラークに捧げます」 と添えているだけありますわ。


 もはや絶滅危惧種ともいえるバーバリアン・ヒロインと筋肉美がフランク・フラゼッタ*1を想起させる美醜混在幻想絵巻 『Diadem』。  『PRESENT』 や 『Stephanos』 の冒頭からは想像もつかない 「え……ちょ、そっちに行くの!?」 的グラインドっぷりなんかもよいです。 


 描き下ろしショートSFで特に気に入ったのは 『Lot』 かな。 話自体は目新しくも無いのだけど舞台が 「ドバイで一番の高層ビル」 というアイロニーが強烈にツボ。 ブルジュドバイでSFマインドを刺激されまくった人間の一人ですが、正直この発想はありませんでしたわ。 発想がなかったといったら 『寿司戦隊』 の寿司+変身ヒロイン=女体盛り(※18才未満は検索しちゃダメ)もいろいろ頭がおかしいナイスヱロ根性というかにぎり寿司で海苔つきが許されるのは玉(ぎょく)のみというのがジャパニーズトラディショナルなのです寿司食いねぇ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 それはそれとして全編を通して思った事は、年の差カップルが好き過ぎるだろう作者という事。 収録されている短編5本のうち4本に社会的地位にも実年齢にも壁あり谷あり隔たりありな者同士のカップリングが存在するというのは異常。 いや、私個人としてはまったくいっこうにぜんぜん微塵もかまわないどころか好物なので無問題なのですが、むしろドンとこい(某「年の差カップルウィザード」ラノベの新刊に手を伸ばしながら)。


 現在連載中のギャングスター物よりSF的分野の方で良い作品(別に前出の漫画が悪いと言うわけじゃないです)を生み出せる方なんじゃないかなー、と思うのだけどSF自体が一般受けしないジャンルなんで連載作にするには難しいのですかね。 今後も年に一度くらいのペースでかまわないので、この作品集に収録されているような漫画を描いていただければ嬉しいですはい。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
Boichi 作品集 HOTEL (モーニング KC)

*1:ファンタジーアートの第一人者!