林亮介『迷宮街クロニクル1 〜生還まで何マイル?』

 「現代日本を舞台にした Wizardry (とみせかけて狙ったところは 沙村広明『おひっこし』*1 !)」 という奇特(※誤用)なスタイルで一部の人達(当方含む)を沸かせた Web小説『和風Wizardry純情派』 が様々な経緯をへてようやっと商業書籍化。
 大人の事情でタイトルは変わったようですが内容自体は基本的に以前のままで、それに大幅な加筆修正がなされているという仕様。 つか、Web版の第一回が掲載されてから既に5年も経過しているのですなあ。 もう一世代前の話ですよ一世代! ともあれ同小説およびWizardryファンは21世紀にもなって活字で! しかも紙媒体で! Wizの文脈が楽しめる! ことを歓喜しかるのち喝采すればいいと思うのです。 ひゃっほう。


 もちろん、そんな経緯を知らなくても 「現代日本に突如として現れた“迷宮”という特殊地帯に様々な事情/思惑を抱えて寄り集まってきた人々の姿を描いた群像劇」 として充分に楽しめる優れた小説なので、初めてこの作品の存在を知った方も安心して手に取られもみても大丈夫です。 ええ、たぶんきっと。  


 んで、さっそく再読してみたのですけど、やっぱ面白いですわ。 理知的で抑制のきいた文章や多視点を混乱させる事なくコントロールしてのける構成もそうなんですが、腑に落とし方の妙といいますか。 「言われてみればなるほど、そうなるわな」 という納得の利かせ方がバツグンに巧いのですよね。 治癒術と垢の関係とか低温時の身体の動きとか、こういう小さな描写がコツコツと積み重なって人間や世界観がより浮き彫りになっていく楽しさはやはりRPGと通じるものがあるよなぁ、とひとり納得したりしなかったり。 (たぶん錯誤)
 物語的には真壁くんが自分の立ち位置再確認し終わって、これから更に面白く/厳しくなっていくというところで終わっているので、はやいとこ(Web版からブラッシュアップされた)続きが出てほしいのです。 何気に重要な役割を果たすコワモテ商社マン後藤さんや元・女子高生で忍者なあのコも顔見せ程度でしたしラブ展開もまだまだ地盤固めの段階ですし。 あー、京都行きてー。 寿司食いてー。 


 ともあれ残りの中、下巻が無事刊行されますように! 「祈る心を忘れずに」 とは言うけれど、こればっかりは売上げ次第という世知辛い仕様のようで。 


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迷宮街クロニクル1 生還まで何マイル? (GA文庫)

迷宮街クロニクル1 生還まで何マイル? (GA文庫)


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*1:竹易てあし漫画全集 おひっこし (アフタヌーンKC)