道満晴明『性本能と水爆戦 征服』

 ビブリオマニアならば一触りしただけで背筋がゾワリとしそうな(少なくとも私はした)ペーパーバッククラスの紙質からも醸し出されている様に、基本的には気楽に読み飛ばせるパルプフィクション尽くしの掌篇/短篇漫画集ではあるのだけれど、ハイブリットな作品群の底から時折覗かせる作者の怜悧な視点と星新一筒井康隆小松左京といった日本SF御三家を軽く彷彿とさせる文脈がなかなかどうして、一筋縄では行かない味わいを与えてくれます。 ……頭のネジが5、6本外れているだけという気もしないでもないですが、おもしろいので無問題。 
  
 全45篇と話の本数も多く、恋に落ちた人魚と若者に降りかかる“人間の業”という受難を童話チックに描いた「海と毒薬」(※臆面もないタイトルだ!)や、予知能力で自分の未来を知ってしまった少女の初々しい反応が微笑ましい恋物語「運命のひと」。 混ぜすぎトワイライトゾーンな「エアポート`05」、グランドホテル形式の「ホテルジズム」は頭の打ち所を間違えた猟奇趣味といった感じで、任侠映画的世界で展開される極道たちの抗争劇「レンコン」のような“命(タマ)の取り合い=精子を抜き取られたら死ぬ”という駄洒落とパロディが混在したバカ話もあれば、戦場から帰還した男とポルノスターとして生きる女とを結ぶ幸運の猫の物語「PHANTOM PAIN」といったやるせなさと力強さが並列したハードボイルド風味の話もあるなどバラエティも豊かです。 「性本能と水爆戦」みたいに凍えた身体にぬくもりを与えるようなやさしく穏やかなメルヘンもありますしね。


 ただ、性欲、道徳といった衝動や観念そのものをおちょくるシニシズム的姿勢を物語のアーキテクチャとしている印象は受けたかな。 これはカタチこそ違えど全篇を通してみられる部分なんだけど特にその傾向が顕著な話としては、身体的特徴が単なるオプションパーツとしての価値しかもたないホムンクルス達に偶然巻き起こった性と人格の目覚めの一騒動を描いた「フェイクファー」などがあげられるでしょうか。 オチも酷いんだコレが(褒め言葉)。 あたたかい毛布とスープをっーー!


 んで、特に気に入ったのは、シザーハンズ以上に報われないフリークス物語の「トゲトゲ」、狂信的な世界観と破滅的な恋が恐ろしくも美しい「ミクスチュア」、寓話性の置き方と閉じた関係がステキな「TOOTH FAIRY」、戯言百合物語「チョコレイト」の4篇。 どれも“世界の片隅で紡がれる小さな物語”スキーには堪りません。 そういえば最近は「ミクスチュア」みたいな残酷で切なくなるような純愛劇というのはお目にかかれなくなりましたねぇ。 ワリと、というかこーいう話は(も)かなり好物なのですけれど。 つうかキブミー人外炉利。
 あ、しまった! SFとファンタジーが交差する“週末/終末をアナタと”系な「ラブラブショー」を忘れてた! つまり全部で5篇!(まさかの時のスペイン宗教裁判っぽく)


 表紙に釣られて購入したのですが大当たりでした。 カバー折り返しによると他にも作品集が出ているそうなのでそちらも入手してみるのです。


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性本能と水爆戦 征服 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)